香りで、時を感じる。― 淡路島のお香ブランド「SOZO」
一本のお香を焚いていたら、途中で香りが変わった――そんな経験はあるでしょうか。兵庫県淡路島の線香メーカー、株式会社新香が生み出した「SOZO(ソウゾウ)」は、一本の中で香りが段階的に移ろう、これまでにないお香です。香りとともに、時間の流れそのものを感じてほしい。そんな想いから生まれました。
「想像」を「創造」に変える、という姿勢
SOZOという名前には、「想像」を「創造」へ変えていくという、ものづくりへの姿勢が込められています。「こんなお香があったら面白い」という想像を、淡路島で培ってきた線香製造の技術と、自分たちの手による試行錯誤で実際の商品へと創造していく。その考え方をブランド名に重ねているといいます。
ロゴには“ドア”を採用しました。従来の卸中心の枠から一歩外へ出て、自分たちで扉を開き、これまで出会えなかった人や国々とつながりたい。その思いを形にしたものです。
1988年創業、線香メーカーの2代目が挑んだ開発
株式会社新香は1988年10月創業、兵庫県淡路島を拠点とする線香メーカーです。現在は代表を含め5名という小さなチームで、製造、包装・出荷、事務までを担っています。SOZOは、長年培ってきた線香製造の技術を生かしながら、従来のお香にはない新しい体験をつくるブランドとして、企画から製造まで自社で開発しました。
代表者は家業を継いだ2代目。幼い頃から父の仕事場を見たり、手伝ったり、ときには邪魔をしたりしながら育ち、長男ということもあって、いつかは家業を継ぐという気持ちは自然に持っていたといいます。学生時代に化学を専攻し、前職でも化学分野に携わった経験は、現在の香りの調合や原材料の選定、試作の考え方にも役立っているそうです。実際に家業を継ぐと、墓じまいなど生活様式の変化によって、昔ながらの線香需要が年々減っている現実に直面しました。さらに東日本大震災やコロナ禍を経て、従来型の線香だけに依存することへの危機感は一層強くなっていきました。コツコツと粘り強く、最後までやり遂げることが得意な性格と、化学の知識。この両方が、約5年に及んだSOZOの開発を支えたといいます。
淡路島、日本有数の線香産地
兵庫県・淡路島は、日本有数の線香産地です。淡路島で線香づくりが始まったのは1850年頃とされ、西岸の江井地区で泉州堺から製法が伝えられました。この地で線香産業が発展した背景には、瀬戸内海地域らしい比較的雨の少ない気候に加え、播磨灘から吹く強い季節風が、製造工程で欠かせない線香の乾燥に適していたことがあります。また、当時の江井には良港があり、原材料の搬入や完成した製品の出荷にも恵まれていました。自然条件、物流、そして長年蓄積された職人の技術。この3つが重なり、淡路島は線香の一大産地へと育ちました。SOZOも、この土地で受け継がれてきた技術を土台に、新しい発想を組み合わせ、現代の暮らしに合うお香づくりに挑戦しています。
きっかけは、お客様の何気ない一言
家業を継いだ頃から、従来型の線香需要が減少していく中で、他社と同じものや、単に香りだけにこだわった商品では現状を変えられないと感じていたといいます。目指すなら、世の中にない唯一無二のものづくりだと考えていました。
そんな中、お客様から「好きな香りでも毎日嗅いでいると飽きるし、だんだん感じにくくなる」「新しい香りを買い足すと、使い切れずに残ってしまう」という何気ない声を聞きました。それなら、一本のお香の中で香りが変われば、飽きにくく、しかも面白い。そこからSOZOの発想が生まれました。「一本の中で香りが変わればいい」と直感した瞬間、当時「一本のお香の途中で香りが変わる」という発想自体がほとんどなく、実現できれば唯一無二になると感じたそうです。難しいからこそ挑戦する価値がある――その気持ちで開発が始まりました。
「香りで、時を感じる。」
代表商品「春夏秋冬」のセット内容
この商品で一番伝えたい価値を一言で表すと、「香りで、時を感じる。」。SOZOは、一本のお香の中で香りが段階的に移ろい、その変化によって時間の流れを感じることができる“香りのお香タイマー”です。香りそのものを楽しむだけではなく、香りの変化とともに過ごす時間そのものを豊かにすることが、SOZOの一番の価値だといいます。
燃焼時間は約20分。忙しい毎日の中で、時計やスマートフォンから少し離れ、自分の感覚に意識を向ける時間を届けたい――読書、仕事の合間、考え事、一日の終わりなどに火を灯し、香りの移ろいを感じながら過ごす。何かを急いで終わらせるための20分ではなく、「今この時間」を静かに感じられる、デジタルデトックスを兼ねた20分になれば嬉しいと語っています。
自分たちの手でつくり上げた、専用機械
SOZOの最大の独自性は、香りの異なるお香同士を一本の中でつなぎ、燃焼とともに香りが段階的に移ろうようにする独自製法です。この技術はすべて自社で開発し、特に異なる香りをつなげる工程はSOZOの核心となるノウハウ。特許出願をすると技術内容が公開されるため、この核心部分はあえて特許化せず、独自ノウハウとして社内に蓄積・管理しているといいます。一方で、SOZOのブランドとデザインは商標・意匠によって保護されています。
香りの異なるお香をつなげるためには、既存の設備では対応できない特殊な装置が必要でした。そこで「自分たちでつくるしかない」と腹を決め、試行錯誤しながら専用設備を手作りしました。この自作機械が、開発の大きなブレークスルーになりました。
見た目は一本になっても、香りが混ざれば失敗
開発でもっとも苦労したのは、香りの異なるお香同士を一本の中でつなぐ工程でした。当初は従来の線香製造技術の延長でできると考えていましたが、最初の数年間は、何度試しても接続部分で香りが混ざり、狙った切り替わりを実現できませんでした。見た目は一本になっていても、焚くと狙ったように香りが切り替わらない。これが何年も続いたといいます。
転機は、既存設備で解決しようとする発想を捨てたことでした。外部に頼るのではなく、SOZOのための専用機械を自分たちでつくる。その決断によって、約5年の歳月をかけて、ようやく独自製法へたどり着きました。それでも「一本の中で、はっきりと香りが移ろう」という最初の発想を諦めず、試行錯誤を続けました。時間がかかっても、SOZOならではの体験が成立するところまでやり切ることを選んだといいます。
燃やしてみて、初めてわかる
SOZOでは、香りそのものの良さだけでなく、異なる香りを一本の中で組み合わせたときの相性を重視しています。香料は、そのまま嗅いだときと燃焼させたときで印象が変わるため、原材料や香料の選定では、必ず実際のお香として燃やした状態を確認するそうです。前の香りが次の香りを邪魔しないこと、香りの変化をきちんと感じられること、そしてお香として心地よいこと。この3つを基準に、配合を細かく調整しています。
最も神経を使うのは、異なる香り同士をつなぐ工程と、実際に燃焼させたときの最終確認です。物理的につながっているだけではSOZOにはなりません。一本のお香として安定して燃え、前後の香りが過度に混ざらず、それぞれの違いを感じられる必要があります。そのため最終判断は、必ず実際に焚いて香りの移ろいを確認する官能評価で行っているといいます。
原材料の選定から練り、成形、乾燥、選別、梱包まで、季節にもよりますが一つの商品が完成するまでに約2〜3週間。特に線香づくりでは、気温や湿度などによって乾燥状態が変わるため、各工程で職人が状態を確認しながら進めています。練り上げた生地の状態、成形後の仕上がり、乾燥具合、燃焼状態、最終的な選別まで、すべての工程に人の目と手が入っているといいます。
4つの香りが移ろう、代表商品「春夏秋冬」
春夏秋冬〜FOUR SEASONS〜
SOZOの魅力を3つ挙げるとすれば、次の通りです。ひとつ目は、一本のお香の中で香りが段階的に移ろう、独自の体験。ふたつ目は、約20分の燃焼時間を、時計ではなく香りの変化によって感じられること。そして3つ目が、淡路島の線香製造技術を土台に、製法・重要設備まで自社で開発した独自性です。
代表商品「春夏秋冬」では、一本の中で 桜 → ラベンダー → 金木犀 → 水仙 と、4つの香りが移り変わります。春の桜、夏のラベンダー、秋の金木犀、冬の水仙と、淡路島の四季を一本のお香で表現しています。
静かな部屋で、寝かせて焚く
SOZOの使用イメージ
付属の黒色の不燃性マットを、汚れてもよい陶器などの上に置き、火をつけたSOZOをその上に寝かせて焚きます。無風に近い静かな環境で寝かせて焚くことで、香りの移ろいを感じやすくなるそうです。読書や仕事の合間、考え事、一日の終わりなど、「約20分だけ少しゆっくり過ごしたい」というときにおすすめだといいます。
自分自身のリラックスタイムはもちろん、香りが好きな方、忙しい毎日を過ごしている方への贈りものにもおすすめです。「春夏秋冬」のように日本の四季を香りで表現した商品もあり、日本らしさを感じるギフトとしても選ばれています。誕生日やお礼、季節の贈りもの、海外の方へのギフトなど、相手に少し特別な時間を贈りたい場面に向いているといいます。
お客様が見つけた、「贅沢焚き」
馨〜KAORI〜
お客様から教えてもらった、想像していなかった楽しみ方もあります。SOZOの「馨〜KAORI〜」は、コーヒーからバニラへ香りが移ろう商品ですが、あるお客様から「両端から火をつけて寝かせて焚くと、バニラコーヒーのような香りが楽しめました」と教えてもらったそうです。本来は片側から火をつけ、香りの移ろいを楽しむ商品なので、この焚き方は開発者にとっても全く想定していないものでした。二つの香りを同時に立ち上げることで、通常とは異なる香りの重なりを楽しめる――まさにSOZOだからこそできる、新鮮で少し贅沢な楽しみ方です。この焚き方には、親しみを込めて「贅沢焚き」という名前がつけられています。
「香りが変わるなんて嘘でしょ?」から始まる驚き
発売当初、「一本のお香の中で香りが変わる」と説明すると、「香りが変わるなんて嘘でしょ?」と言われることがあったといいます。ところが実際に焚いて体験してもらうと、「本当にはっきり変わるんですね」と驚かれるそうです。特に「春夏秋冬」は一本で4つの香りが移ろいます。そもそも、そのようなお香があるという概念自体が多くの方になかったため、言葉だけで理解してもらうことが難しい商品でした。一方で、一度体験してもらえれば、その“驚き”そのものがSOZOの魅力になると実感しているといいます。
SOZOは、単に一つの香りを選ぶ商品ではなく、「今日はどの香りの移ろいを楽しもうか」と選ぶ楽しさがあります。複数の香りを一本で楽しめるため、香りに飽きにくいことも特徴です。約20分という使いやすい時間、香りの組み合わせごとのストーリー、パッケージを含めたデザイン性なども、日常使いだけでなく贈りものとして選ばれている理由だと考えているそうです。
これから目指す先
SOZOで培った独自技術を生かし、これからも「弊社だからこそできる新しい体験」を生み出していきたいといいます。アート、地域、季節、異業種などとのコラボレーションを通じて、香りでしか表現できない価値にも挑戦していきたいそうです。
「伝統的な技術を活かしながら新しい自分たちのアイデアを組み合わせ、香りを通じて人々の心を穏やかにし、日々の生活に安らぎと豊かさをもたらす商品を創造します。世界中のお客様に喜びと感謝を広げることで社会に役立ち、チャレンジしていくことに全力を尽くします。」――これが、株式会社新香の理念です。当面の目標は、SOZOを世界中に届け、日々の豊かな暮らしに貢献しながら、国や世代を越えて長く愛されるお香に育てること。代表者にとってSOZOは、大切に育ててきた子供であり、一緒に歩む相棒であり、未来に向けて進む推進力でもあるといいます。
受賞歴
SOZOは2025年度グッドデザイン賞を受賞。また、おもてなしセレクションでは2024年・2025年の2年連続で最高金賞を受賞しています。代表商品「春夏秋冬」は五つ星ひょうごにも選定されています。
読者の方へ
SOZOに火を灯したら、約20分だけ、時計やスマートフォンから少し離れてみてください。香りが少しずつ変わっていくことで、「時間が過ぎた」というよりも、「時間が移ろっている」という感覚を楽しんでもらえたらと思います。読書をしても、考え事をしても、何もせず過ごしても構いません。デジタル機器から少し離れてみませんか。
SOZOは、「香りが変わる面白いお香」というアイデアだけで生まれた商品ではありません。約5年の試行錯誤の中で、製法だけでなく、必要な機械・装置まで自分たちの手でつくり上げてきました。淡路島の伝統的な線香製造技術を土台にしながら、2代目として「これまでにないものをつくる」と決め、自分たちの技術で新しいお香の体験を形にした――その背景まで含めて、SOZOを知ってもらえたら嬉しいです。SOZOが、日常の中に少しだけ穏やかで豊かな時間をつくるきっかけになれば嬉しいといいます。