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崖っぷちのマスメーカーが、日本一になるまで。― 有限会社大橋量器


崖っぷちのマスメーカーが、日本一になるまで。― 有限会社大橋量器

岐阜県大垣市。日本国内で作られる枡の、実に80%がこの一つの町から生まれていることをご存じでしょうか。「水の都」と呼ばれるほど地下水が豊かに湧き、いくつもの川が流れるこの土地は、木曽・東濃という日本有数のひのきの産地にほど近く、古くから良質な天然桧を手にできる恵まれた場所でした。年間出荷数はおよそ200万個。市内に残る3社の枡メーカーは、いずれも遠い親戚にあたるといいます。その一社が、1950年(昭和25年)創業の有限会社大橋量器です。70年以上にわたって枡と向き合ってきたこの会社には、一度は経営が最下位クラスにまで沈み、そこから若い世代の発想を取り込んで這い上がってきた、ちょっと意外な物語があります。

「大橋」の姓と「量器」への想いから生まれた社名

大橋量器という社名は、創業者の姓「大橋」と、計量器具を意味する「量器」からきています。創業したのは、現代表取締役の祖母にあたる大橋むね。女性経営者として、家では優しく、仕事では厳しい人だったと語り継がれています。創業当初は枡だけでなく、物差しや身長計も手がける量器メーカーでした。しかし枡へのニーズが徐々に集中していったことから、やがて枡専門メーカーへと軸足を移していきます。現在では、その枡づくりで培った技術を活かし、酒器や器、パッケージ、ノベルティなど、幅広い分野へと商品を展開しています。拠点である岐阜県大垣市の本社・工場では、37名の社員が製造から企画、営業までを一貫して担い、オリジナル商品とOEM製品の両方を手がけています。

IT業界から、いきなり「ローテク」の世界へ。そこで見た厳しい現実

現代表取締役の大橋博行氏が家業に入ったのは1993年、結婚がきっかけでした。それまで勤めていたのはハイテクな大手ITメーカー。一転してものづくりの現場に飛び込むことに戸惑いながらも、枡づくりの道を歩み始めます。

だが、いざ飛び込んでみると、待っていたのは想像以上に厳しい現実でした。かつて1億円あった売上は、5,600万円にまで落ち込んでいたのです。当時大垣にあった7社の枡メーカーの中でも、最下位クラスの業績。大橋量器は、まさに崖っぷちに立たされていました。

この危機に対して大橋量器が徹底したのは、お客様のニーズにNOと言わず、全力で応えることでした。従来の業界の枠の中だけで生きていては未来がない。そんな危機感を原動力に、枡の使い方や形を大胆に変えた新商品開発に、積極的に取り組み始めます。

そして攻めの姿勢を貫いて10年が経った頃、業績はようやく好転し始めます。ところが、ここでひとつの誤算が起きます。実際に売れていたのは、鳴り物入りで開発した新商品ではなく、昔ながらの正統派の枡だったのです。新しい挑戦をすることで注目が集まり、その注目がきっかけとなって、枡本来の魅力に改めて気づいてもらえる。そんな思いがけない好循環が生まれ、大橋量器は大垣の枡メーカーの中で、一気にトップシェアへと駆け上がっていきました。挑戦がもたらしたのは、新商品のヒットではなく、伝統そのものの再発見だったのです。

学生たちの自由な発想が生んだ、お風呂で使う枡

大橋量器がものづくりで大切にしているのは、「大橋量器がつくる」という意味を持たせること。ほかの木工所でも作れそうな商品ではなく、枡らしさを残した商品であること。そのこだわりを象徴するのが、枡とバスソルトという、一見結びつかない二つを組み合わせたヒット商品の誕生秘話です。

きっかけは、大橋量器が数年にわたり参加していた「名古屋デザインウィーク」というイベントでした。芸術系・美術系の大学生たち、いわば若きデザイナーの卵たちとチームを組み、枡の新しいアイデアを発表するという取り組みです。伝統工芸の担い手だけでは思いつかない、柔軟な発想を求めてのことでした。

このとき、2つの学生チームからそれぞれ違うアイデアが出されます。一方のチームからは「塩を入れて、バスグッズにしたい」という案。もう一方のチームからは「枡の底にメッセージを忍ばせたい」という案(当初はおみくじのようなアイデアでした)。まったく別々に生まれたはずの二つのアイデアを、大橋量器はミックスすることを思いつきます。お風呂でソルトが溶けたら、枡の底からメッセージが現れる。さらに議論を重ね、運試しのおみくじよりも、家族や友人からもらったら嬉しい「元気が出る言葉」のほうがふさわしいという結論にたどり着きました。伝統工芸の枡と、学生たちの若い感性が出会ったことで生まれた、ユニークな化学反応の瞬間でした。

五感で楽しむ、リラックス体験のデザイン

この商品が届けたいのは、単なる入浴剤という「モノ」ではありません。五感すべてで味わう「リラックス体験」です。枡メーカーだからこそ実現できる、高品質な国産ヒノキの枡。封を開けた瞬間、そして湯船に沈めた瞬間に、ヒノキの清々しい香りが浴室いっぱいに広がります。これが嗅覚への、最初のご馳走です。

Math Salt 各種の香り(ひのき・ローズ等)

ソルトには、オーストラリア産の海塩に、ヒノキと相性のよい6種類のハーブ──カモミール、ローズ、ラベンダーなど──をブレンド。ヒノキとハーブ、二つの香りが重なり合うことで、より深いリラックスへと誘います。けれど、この商品の本当の仕掛けは、香りが消えたあとにやってきます。ソルトが溶けきったとき、今度は視覚へのサプライズが待っているのです。枡の底からゆっくりと現れるのは、「おつかれさま」や「ありがとう」といった、温かいメッセージ。香りと視覚、両方の側面から、使う人の心身にそっと「ほっと」する時間を届けたい。そんな想いが込められています。

枡の底に浮かぶメッセージ

端材を活かす、環境にやさしいものづくり

素材へのこだわりも、大橋量器のものづくりを支える大きな柱です。使用しているのは国産のヒノキ。しかもそれは、住宅の道具などを作る際に余ってしまう端材を活用したものです。林業のサイクルに根ざした、環境に優しい製品づくりが、ここに息づいています。

製造工程では、ロッキングカッターという機械で枡の組目となる溝(ほぞ)をつくります。複数枚の大きな刃が等間隔で高速回転し、木材に一気に溝をつけていく、枡づくりの要となる重要な工程です。枡の大きさに応じて、使用する機械も数種類を使い分けています。次いで、円盤カンナという機械で枡の側面4面、角8か所を削ります。飛び出た段差やささくれをなくし、手触りを滑らかに仕上げるこの工程は、わずか1秒足らずの削り時間で、それぞれの枡の状態に合わせて肌感覚で調整していく、まさに職人の技が光る場面です。

カッター工程:組目の溝(ほぞ)を加工した木材

仕上げ削りの様子(職人の手元)

材料の乾燥には12週間。規格品の枡であれば、11の工程を経て5日間かけて仕上げられます。特注品になると、製作期間は商品によって14週間ほど変わってきます。機械を使う工程はあっても、基本的にはどの工程も手作業が中心。すべての工程において、都度職人の感覚による微調整が加えられています。たった一つの枡の背後に、これだけの手間が積み重なっているのです。

香りと言葉が、贈る人と受け取る人をつなぐ

この商品の魅力は、大きく3つあります。ひとつは、枡ならではの香りと温もりを楽しめること。国産ひのきの枡をそのまま使用しているため、お湯に浮かべると、ひのきのやさしい香りと木の温もりを感じられます。入浴剤という枠を超えて、日本ならではの素材を五感で味わえる商品です。

ふたつめは、「贈る気持ち」を伝えられるメッセージ入りであること。枡の底に印字された「ありがとう」「おつかれさま」といった言葉は、入浴後に初めて気づく仕掛けになっています。言葉とともに癒しを贈れる、ギフトにぴったりの一品です。

そしてみっつめが、この商品がただの入浴剤で終わらない理由です。入浴後も枡そのものを楽しめること。使い終わったあとは、小物入れやインテリアとして活用できます。使い切りで消えてしまうのではなく、その先に「枡のある暮らし」が続いていくのです。

一日の終わりに、枡ごと湯船に浮かべてゆっくりと香りを楽しむ。誕生日や母の日、送別会などで、メッセージを添えたプチギフトとして贈る。乾かした枡を、アクセサリーや鍵を入れる器として再利用する。香りの違いを気分や季節で選び、自宅でちょっとした温泉気分を味わう。使い方は、暮らしの中でいくつも広がっていきます。

誕生日や記念日の贈りもの、母の日・父の日・敬老の日のギフト、送別会や退職祝いのプチギフト、結婚式のプチギフトや企業ノベルティ。実用性と日本らしさを兼ね備えた贈りものとして、さまざまなシーンで選ばれています。秋冬の寒い季節はもちろん、冷房で体が冷えやすい夏の湯船にもよく似合い、海外の方へのお土産としても、ひのきの香りと枡という日本文化を感じてもらえる一品です。

お客様からは、「贈った相手がとても喜んでくれた」「使い終わった後も枡を小物入れとして使っています」といった声が寄せられています。入浴剤として楽しむだけでなく、その後も枡が暮らしの中で使われ続けていると知るたび、大橋量器の担当者はとても嬉しく感じるといいます。「メッセージを見て思わず笑顔になった」「開けた瞬間からひのきの香りに癒された」という感想も、印象に残るものだそうです。商品そのものだけでなく、贈る人と受け取る人をつなぐきっかけになっていることを、日々実感しています。

「大垣といえば枡、枡といえば大垣」を目指して

大橋量器は今後も、毎年何かしらの新商品を生み出し続けていきたいと考えています。あわせて見据えているのが、海外の販路開拓です。海外の展示会にも積極的に出展をしていく方針だといいます。

大垣の周辺では、少しずつ知られる存在になってきました。それでも大橋量器が目指す先は、もっと遠くにあります。もっと多くの人に大垣の枡を知ってもらうこと。「大垣といえば枡、枡といえば大垣」と言ってもらえるように。枡を日本全国、そして世界中の人々に知ってもらい、枡を「楽しい」「面白い」と感じてもらえるよう、これからも精進を重ねていきます。

読者の方へ

木のぬくもりや香り、時とともに変化していく表情を楽しみながら、使ってみてほしい。伝統工芸を特別なものとしてではなく、日常のなかに気軽に取り入れてほしい。贈りものや祝いの場など、人と人とをつなぐ道具として使ってもらえたら、これほど嬉しいことはありません。

創業から70年以上、伝統技術を受け継ぎながら新しい価値を提案し続けてきた大橋量器。国産ひのきを使い、素材選びから製造まですべて国内で行い、OEMからオリジナル商品まで一つひとつ丁寧に手がけています。枡には古くから「祝い」や「福を増す」といった、日本ならではの意味が込められてきました。その枡を現代の暮らしに合わせて新しい形へと進化させながら、「枡=伝統工芸」ではなく、「枡=暮らしを豊かにする木製品」という新しい価値を、これからも届けていきます。

一枚の板が、幾つもの手を経て、小さな箱になる。そして、その箱の底には、誰かを想う言葉が眠っている。手に取るたびに、日本のものづくりと職人の技術を、少しでも感じていただけたら嬉しいです。

Math Salt 商品写真

まずは、その手触りと香りを、ぜひ暮らしの中で確かめてみてください。

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